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第 285 回 三崎談話会

下記の通り、第285回 三崎談話会を開催いたします。参加申込・お問い合わせは、三浦(miu_at_mmbs.s.u-tokyo.ac.jp)または小口(世話人 k.ohgreen226_at_gmail.com)まで。

日時:2018年4月19日(木)16時00分〜

場所:東京大学大学院理学系研究科・附属臨海実験所・会議室

講演者:松本忠夫、岡田泰和

懇親会: 18時30分〜

松本忠夫(放送大学客員教授、東京大学名誉教授)
「『歩行するクジラ』を翻訳して」

 日本人にとってクジラ類は食料、工芸物、燃料、肥料にするなど、古来とても関心が深かった動物である。現在では国際的な協定によって大型クジラの捕獲が停止されたが、日本各地での水族館におけるイルカショー、またクジラウォッチングなどで親しまれている。クジラ類の祖先は約5000万年前の始新世にいたマメジカのような陸生で植物食の偶蹄類である。それが水辺へ進出してわずか800万年間で、歯クジラ、鬚クジラのような動物食の水生動物へと進化した。中には、恐竜を含めて地球上に出現した動物のうちで、最も大きな種も生じた。ダイナミックな進化をとげたわけだが、その進化のプロセスや要因は、 Thewissen著の「The Walking Whales(2014)」という単行本で、古生物学、解剖学、運動生理学、発生学、分子生物学などの多方面からみごとに説明されている。私はその本に感動し、それを和訳し、「歩行するクジラ」として今年の3月に東海大学から出版した。本講演において、その内容の要点および関係した学問の背景を説明してみたい。

岡田泰和(首都大学東京・理学部・動物生態学研究室)
「社会的相互作用によるアリの活動性と活動リズム制御」

 地球上の生物にとって、昼夜や潮汐など、外部の周期的環境や、エサ資源、協力者や交配相手など生物学的・社会的環境に応じて活動性・活動リズムを調節することは普遍的な適応現象である。アリなど、真社会性の動物は、繁殖に特化した女王と育児などの仕事を遂行するワーカー(階級・カースト)が高度な分業を行う点が大きな特徴である。こうした社会性昆虫では集団(コロニー)レベルでのパフォーマンスを最適化するような選択圧が働くため、カースト役割ごとに多様な行動を示す。そして、行動が異なるもの同士が集まって、コロニーの生産性・持続性を増していると考えられる。本講演では社会行動の時間生物学的な側面に注目し、アリの分業においてどのような活動性の多型が見られるのかを紹介する。一般に、繁殖を担う女王は、羽化直後は交尾を行うため巣外活動を行うが、交尾後はほぼ一生、地中で産卵のみを行う。こうした“繁殖モード”に入った女王には常時産卵し続けるような選択圧が働くと考えられている。一方、ワーカーは育児や採餌など、担当する仕事の内容に応じてさまざまな時間の使い方をすることで、育児やコロニーの成長を最適化できると考えられる。我々はトゲオオハリアリ(Diacamma sp.)という、順位によって女王役とワーカー役が決定する単型(形態のバリエーションがない)のアリを対象にした研究から、1)女王とワーカーにおける活動リズム多型の発達、2)育児内容によるワーカー概日活動性の可塑的変化、3)巣仲間間での社会的相互作用による活動リズムの制御、を見出した。講演では、これらの活動リズムの変異性がどのような相互作用によって作出され、どのような適応的意義を持つのかについて議論したい。