2020年6月にプレスリリースされた、小口晃平さん(現:産総研)と三浦教授の研究成果が、東京大学のyoutube チャンネル(研究室の扉)に公開されました。
シロアリの繁殖制御に関する論文で、東京大学、関西学院大学、慶應大学のチームによる研究成果です。以下、プレスリリースの概要です。
—————-
真社会性昆虫は、一部の個体のみが繁殖を担い、他個体は不妊の労働カースト(ワーカー)として働く繁殖分業を最大の特徴とする。シロアリでは、雌雄の生殖虫(女王と王)がコロニー内に共存し、他個体のカースト分化に影響を与えることで、適切な生殖虫の数や比率を維持していると考えられてきたが、雌雄の生殖虫と他個体との関わりによるカースト分化決定機構の詳細は未知であった。
東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所の三浦徹教授を中心とした研究グループは、シロアリの巣内で生殖虫が失われたときに、本来は労働のみに従事するワーカーが繁殖個体へと脱皮する「補充生殖虫分化」(以下、「生殖虫分化」と表記)に着目した。この分化過程では、生殖虫の存在に応じてワーカーの生理状態が変化し、生殖虫へと分化する仕組みの存在が予想されてきた。シロアリでは、体内の幼若ホルモン(juvenile hormone: JH)(注1)の濃度変動がカースト分化運命を決定することが知られるが、生殖虫分化におけるJHの機能については未知であった。そこで本研究では、オオシロアリHodotermopsis sjostedtiを用い、雌雄の生殖虫と同居させたワーカーの生理状態がどのように変化し、カースト分化運命を決めるのか実験・分析を行なった。
飼育実験の結果、オス生殖虫によるメス生殖虫分化の促進効果は、その逆(メス生殖虫によるオス生殖虫分化)よりも明らかに強く効いており、脱皮までの期間が短縮されることで、速やかなメス生殖虫分化が実現されていることが明らかとなった。そしてこの促進効果は、オス生殖虫がメスワーカーの体内JH濃度を低下させることで実現させていることを明らかにした。このことは、メス生殖虫分化が誘導されるはずのオス生殖虫の存在下のワーカーにJH類似体(注2)を投与した結果、ワーカーの脱皮期間が延び、生殖虫分化が阻害されたことからも支持された。このように、シロアリの生殖虫分化の裏には、オス生殖虫がメスワーカーのJH濃度を操作することでメス生殖虫分化を促進する機構が存在し、その結果メスに偏った生殖虫の性比が実現していることが強く示唆された。
—————-
詳しくは下記のリンクをご覧ください