各教員の研究内容

1. シリス科多毛類の特異な発生および繁殖様式(三浦)
2. シロアリのカースト分化(三浦)
3. 卵由来物質による精子の運動調節機構(吉田)
4. 哺乳類精子の受精能調節機構の解明(吉田)
5. 脊椎動物Otx2遺伝子の転写調節の進化(黒川)
6. クモヒトデ類の系統・分類学(岡西)


1.シリス科多毛類の特異な発生および繁殖様式(三浦) 詳細はこちら
 シリス科のグループは極めて特異な繁殖様式を示す。卵から発生した個体は成長して成熟個体となる。成熟個体は生涯を通じて底生性であり自らが産卵や放精を行うことはなく、生殖腺を発達させた尾部に新たに頭部や遊泳肢が形成され、これが親個体から乖離して遊泳し、雌雄の個体が遭遇したのち放精・産卵を行う。この遊泳個体はストロンと呼ばれており、個体自体は完全に親個体(ストックと呼ぶ)とクローンである。どのような環境要因が引き金となり、いかにして尾部がストロンへと発生していくのかなど、ストロナイゼーションと呼ばれるこの繁殖様式には進化生態発生学的な多くの疑問を見いだすことができる。本研究課題では、ミドリシリス Megasyllis nipponicaの飼育・誘導系を確立し発生学的な研究を推し進めることで、ストロナイゼーションの生理発生機構に迫る。

尾部のストロンが発達したミドリシリス

2.シロアリのカースト分化(三浦) 詳細はこちら
 シロアリのコロニーでは形態・行動が異なるカーストに仕事が割り当てられることによって、秩序ある社会行動が実現している。例えば,攻撃に特化した兵隊では,大顎などの武器に相当する構造を肥大化させるなどの形態形成の過程が存在するはずである。シロアリでは,幼若ホルモンはカースト分化に関与することが多くの知見から支持されている.我々の研究によって感受期における幼若ホルモン濃度の変動パターンがカースト分化運命を決定することが明らかとなっており、個体間相互作用によって幼若ホルモン濃度が制御されることも示されている(Cornette et al. 2008, Watanabe et al. 2014)。これまでの研究では、カースト特異的遺伝子発現の同定、兵隊分化における形態形成とインスリンやツールキット遺伝子の発現と機能、補充生殖虫分化におけるホルモンの役割と生殖腺の発達、フェロモン分泌腺の発達と個体間コミュニケ−ションなど、多岐にわたる研究テーマに取り組んでいる。

オオシロアリのカースト分化経路

3.卵由来物質による精子の運動調節機構(吉田) 詳細はこちら
 動植物を問わず、多くの種において受精時に精子が卵もしくは雌性生殖器に誘引される、精子走化性現象が知られて、精子が同種の卵を見つけるのに重要な役割を果たしている。我々はこの精子走化性について尾索動物ホヤ類を主な材料として研究を進め、これまでにカタユウレイボヤの精子活性化・誘引物質(SAAF)を同定した。現在はこのSAAFがどのように精子運動活性化と走化性反応を引き起こす分子機構の解明にあたっている。特に精子鞭毛打の調節における鞭毛内Ca2+変化に役割、及びSAAFがどのように精子に作用するのかと言った点に着目している。また、精子走化性の種特異性と生物における普遍性の解明のため、カタユウレイボヤの近縁種の精子誘引物質の構造の解明にもあたっている。

精子の走化性運動の制御機構モデル
SAAFの構造式

4.哺乳類精子の受精能調節機構の解明(吉田) 詳細はこちら
 一般的に哺乳類精子は射精された直後は卵子へ侵入することができない。しかし精子は雌の生殖道内を通過する過程において受精能を獲得し、受精直前に先体が開口放出を起こす(先体反応)ことで受精を可能としている。この精子の受精能獲得は、雌性生殖道内の環境によって促進され、さらに精漿に存在する因子によって抑制される(受精能抑制因子)。我々は、マウスにおいて精嚢由来の膣栓形成タンパク質SVS2がin vivoにおいて受精能抑制因子として働くことを明らかにし、さらにSVS2の精子側受容体がガングリオシドGM1であることを明らかにした。現在このSVS2による受精能抑制機構について、解析を進めている。また、先体反応には細胞内Ca2+上昇を持続的に維持することが必要だが、その分子機構の解明にもあたっている。

5.脊椎動物Otx2遺伝子の転写調節の進化(黒川) 詳細はこちら
 Otx2はペアードタイプのホメオボックス遺伝子で、脊椎動物の頭部発生の各段階において重要な働きを持つ。我々はOtx2遺伝子の発現を司る転写調節領域をマウス、スッポン、ニワトリ、ツメガエル、シーラカンス、フグ、エイなどで同定してきた。これらの転写調節領域を比較し、その保存性と多様性の解析から、脊椎動物の頭部発生とその進化を理解する事を目指している。

Mouse Otx2遺伝子の前中脳エンハンサーの活性
クサフグの産卵行動

6.クモヒトデ類の系統・分類学(岡西) 詳細はこちら
 現在我々が名前を付けて認識している約180万という生物の種数は,全体の数%〜数十%に過ぎないといわれている.すなわちこの地球上はまだ新種にあふれており,我々はまだ,その全貌すら把握できていないといえる.我々は,海産無脊椎動物のクモヒトデ綱(棘皮動物門)を研究対象としてその分類に取り組んでいる.これまではツルクモヒトデという深海性のグループについて,分子系統学的な手法を取り入れつつ,新種や新科の報告などを行った.現在は対象をクモヒトデ全体に広げ,マイクロX線CTスキャナーなどの新しい形態観察法にも着手している.また,深海だけでなく,海底洞窟などのこれまで注目されてこなかったフィールドに生息する種にも着目して,研究を進めている.