第296回 三崎談話会のおしらせ

皆様
 

下記の通り、第296回 三崎談話会を開催いたします。今回は、深海のメイオベントスについて(嶋永元裕さん)、恒常性に関わるシグナル経路について(日笠弘基さん)、再生医療について(伊藤弓弦さん)、それぞれ先駆的な研究を展開されいているお三方をお招きしてご講演頂きます。ご興味のあるかたは是非ご参加下さい。談話会・懇親会の申込は、三浦(miu@mmbs.s.u-tokyo.ac.jp)または宇田川(世話人 udagawa@mmbs.s.u-tokyo.ac.jp)まで。




日時:2019年9月28日(土)14時30分~
場所:東京大学大学院理学系研究科・附属臨海実験所・セミナー室
講演者:嶋永元裕(熊本大学・くまもと水循環・減災研究教育センター・准教授)
    日笠弘基(産業医科大学医学部・生化学講座 ・准教授)
    伊藤弓弦(産業技術総合研究所・創薬基盤研究部門・研究グループ長)
懇親会: 17時00分〜 臨海実験所食堂にて 
 
【講演要旨】

嶋永元裕(熊本大学・くまもと水循環・減災研究教育センター・准教授)

「深海温泉のカイアシ類は、ホットなチムニーの上でホットフードを食べるのがお好き?」

 深海底熱水噴出域(熱水域)には、熱水に含有される硫化水素などの還元物質を元に有機物を生成する化学合成独立栄養微生物を摂食、あるいはそれらを細胞内に共生させて栄養を得る熱水域固有の大型底生動物が生息する。これらの熱水固有の大型動物では、高温にさらされるが化学合成細菌による一次生産が盛んな熱水噴出直近部から周辺部へ向かっての環境勾配に沿った棲み分けが知られている。一方、1 mm以下の底生動物であるメイオベントスは、深海において数量共に大型底生動物を凌駕するにもかかわらず、熱水域周辺の生態学的・系統分類学的知見が未だ乏しい状態である。特に日本近海を含む北西太平洋域は、久しく熱水域メイオベントス研究の空白地帯であった。我々は、伊豆諸島海域の火山フロントに並ぶ海底火山のうち、20–30 kmで互いに近接し、熱水域生物群集の比較がしやすい明神海丘、明神礁カルデラ、ベヨネース海丘を調査地域として選び、2012年以降の複数の海洋調査を経て、各海山カルデラ内の複数の熱水噴出孔(チムニー)表面からのメイオベントスサンプル採集に初めて成功した。このようにして得られたサンプルの中から、日本近海では初となる新種の熱水域固有のカイアシ類を発見、本種発見に貢献した(元)学生にちなみ「スティギオポンティウス・セノクチアエ」と命名し、昨年春記載発表した。談話会では、新種のカイアシ類を含むメイオベントスのチムニー表面における群集構造の空間変異や、分類群間の栄養炭素源の差異(食い分け)の可能性について、秘蔵の画像・映像を交えて紹介する予定である。

 

日笠弘基(産業医科大学医学部・生化学講座 ・准教授)

「生体恒常性の維持と破綻の分子生物学」

 われわれは日々、内的・外的ストレスに曝されており、体内の各組織では異物侵入や軽微な損傷が頻繁に生じているが、生来、生体内には免疫応答や組織修復機構が備わっており、このようなストレスに対して生体恒常性を維持することができる。生体恒常性の維持には多様な細胞シグナル伝達経路が関わっていることが知られており、その多くが生体内で厳密な制御下にあると想定されるが、ひとたび破綻に陥ると、慢性炎症やがんなどの重篤な疾患を引き起こす諸刃の剣である。それでは『本来生体恒常性を維持すべきシグナル伝達経路が破綻する端緒・過程とはどのようなものか』。われわれはこの課題を追求する上で、がん、組織再生に関わるHippo経路やWnt経路、免疫応答を制御するToll様受容体/IL-1受容体シグナルに注目し、ヒト培養細胞やマウス個体を材料にした分子機構研究に取り組むことで、ヒト疾患への予防・治療戦略への応用を目指している。本セミナーでは、これまでに得られた研究成果と、未発表データを含む現在進行中の研究について紹介したい。
 

伊藤弓弦(産業技術総合研究所・創薬基盤研究部門・研究グループ長)
「再生医療実用化を目指して橋をかける」


 近年、iPS細胞などを用いた「再生医療」に関する研究もいよいよ、実用化に向けてギアアップを図る時期に来ている。そのためには、原料となる幹細胞を未分化維持しながら大量培養し、安定供給することが重要な技術課題である。また、その細胞原料が多能性幹細胞の場合、それらから作製した移植用細胞/組織の中から、腫瘍源となりかねない分化が不十分な細胞を除去することも、同じく重要な技術課題である。我々産総研も再生医療産業化の担い手の一角として、各種幹細胞の品質管理技術や自動培養技術などを開発してきた。勿論この様な研究は、国内外を問わず多くの研究機関で行われているが、産業化の軸となる「医療用細胞製造業者」、実際に医療用細胞製品を使用する「医療現場」の声等を反映した「橋渡し可能な」技術開発が不十分なため、国内企業が安心して当該産業に参入しにくい状況であることも、強く認識しなければならない。本発表では、産総研における再生医療の実用化に向けた取り組みに関して、幾つかの具体例を用いて説明してゆく。