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第283回 三崎談話会

下記の通り、第283回 三崎談話会 を開催いたします。今回はマリンバイオ共同推進機構 JAMBIO の調査で三崎を訪問される4名の研究者の方々に、ご講演をお願いしております。 参加申込・お問い合わせは、三浦(miu_at_mmbs.s.u-tokyo.ac.jp)または小口(世話人 k.ohgreen226_at_gmail.com)まで。準備の都合上、2/16(金)までにお知らせください。

日時:2018年2月21日(水)  16時00分~

場所:東京大学大学院理学系研究科・附属臨海実験所・実習室

講演者:柳研介、田中正敦、自見直人 、角井敬知

親睦会: 19時から臨海実験所・宿泊棟1階・食堂にて

柳研介(千葉県立中央博物館分館海の博物館)
「タイプ標本調査によって明らかになりつつある本邦をタイプ産地とするイソギンチャク類の全貌 -特に三崎周辺を模式産地とする種について-」

 本邦には,およそ170種程度のイソギンチャク類が生息すると見積もられており,このうち約60種が日本周辺海域をタイプ産地とする種である.これらの種のほとんどは,アメリカの北太平洋調査探検航海(1853-1856年)による「Stimpson Collection」,イギリスのチャレンジャー号探検航海(1872-1876)による「Challenger Collection」,ドイツ人研究者のフランツ・ドフラインの日本調査(1904年)による「Doflein Collection」そして,スウェーデン人のシクステン・ボックの日本調査(1914年)による「Bock Collection」の4つのコレクション中の標本に基づいて,19世紀中頃から20世紀前半にかけて新種記載されたものである.特にDoflein CollectionとBock Collectionには,三崎周辺から採集された種が含まれている.これらの種の原記載は非常に簡便なものが多く,図版を伴わないものも少なくない.現在,イソギンチャク類の分類には,刺胞の型や配置,筋肉性状,隔膜配列,触手の形態や配列,その他の特殊形質の有無などの形態形質が用いられるが,上記の種の多くはこれらの形質の記載が十分でなく、記載に基づいて種を同定することは非常に困難である.また,これまでタイプ標本が再検討された種はごく一部であり,多くの種については,刺胞形質などを含め,分類に必須とされている形態形質が不明なままである.このため,これらの種については,その実体が不明瞭であり,その同定を非常に困難なものにしてきた.一方で,これらの種名は,分類学的検討が行われないままに,図鑑類などで使用されてきたために,普通種とされるものにおいても明白な誤同定があることが少なくない.このようなことから,日本産イソギンチャク類の分類については,ほとんどの種について再検討が必要な状況となっている.本研究では,日本周辺海域をタイプ産地とする種について,タイプ標本の再検討および新規標本による詳細な検討を行い,分類の混乱の解決を目指した.タイプ標本の検討は,アメリカのイェール大学ピーボディ自然史博物館,イギリスのロンドン自然史博物館,ドイツのミュンヘン動物学博物館,デンマークのコペンハーゲン自然史博物館およびスウェーデンのルンド大学動物学博物館・ウプサラ大学進化動物学博物館・スウェーデン国立自然史博物館の各博物館において探索を行った.これらの博物館において発見することのできたタイプ標本について,詳細な検討を行った.一方,タイプ産地周辺において網羅的なイソギンチャク類の採集を行い,これらの標本類から,タイプ標本の検討結果と矛盾しない標本をその種の新規標本として詳細に検討した.発表者は,以上の手順によって,これまで日本周辺海域をタイプ産地として新種記載されたものの,その実体が明らかでない種について再検討を行ってきた.本発表では特に三崎周辺をタイプ産地とする種を中心に,これらの検討結果を紹介する.

田中正敦(鹿児島大学大学院理工学研究科)
「相模湾におけるユムシ動物の分類学的研究-近年の沿岸合同調査の成果を中心に-」

 ユムシ動物は海産環形動物の一群で、世界から約175種が知られており、体節をもたないのっぺりとした体と、そこから伸びる収縮自在の吻(体内には引き込まれない)の存在によって特徴づけられる。水深10,000 mを超える海溝から汽水域までの幅広い環境から知られ、矮雄をともなう顕著な性的二型や後天的性決定が知られるボネリムシの仲間など、動物学上興味深い種を含む。これまでに日本近海からは計24種のユムシ動物が記録されているが、このうち相模湾だけで半数近い11種もの分布が確認されている。このことから、相模湾は現在日本でもっともユムシ動物の種多様性が高い海域といえるが、これはおもに明治時代になされた、池田岩治博士の一連の研究によるところが大きい。残念ながら、その後相模湾における本動物群の研究は長らく停滞していたが、幸運なことに演者は、近年のJAMBIOの支援による沿岸合同調査に参加し、本海域でユムシ動物の調査を集中的に行う機会を得た。本公演では、相模湾におけるユムシ動物の研究の歴史とその重要性に触れつつ、沿岸合同調査で得られた興味深い種について紹介する。

自見直人 (北海道大学理学院自然史科学専攻)
「多毛類の系統分類学 ~分類を端とした生物学~」

 環形動物門多毛類は体節性を有し各節に剛毛を備える蠕虫状の動物で、世界から約12,000種知られる驚異の多様性を誇るグループである。陸地・潮間帯から水深10,890mの超深海まで広く生息し、そのバイオマスも海洋環境中で大きい (Rouse & Pleijel 2001)。そのため海洋環境と生物相の比較等、生態学的な研究において甲殻類・貝類に並んで最も頻繁に出現する分類群である(佐藤 2006)。また、口も肛門も存在しない等非常に特異的な体構造の分類群も散見されることから、発生学分野においてもよく研究されている(e.g. Miyamoto et al. 2017)。以上から考慮しても、多毛類の系統分類学的研究による分類群の認識・整理、多様性の把握は生物学的にも重要な課題である。発表者は学部~博士課程において多毛類の系統分類学を中心に研究を進めてきた。本発表では多毛類の基礎的な部分から、発表者の分類学的研究より発展した形態学的研究についても紹介する。

角井敬知(北海道大学大学院理学研究院)
「タナイス目甲殻類による糸利用」

 節足動物による糸の利用といえば,カイコガ(昆虫類)やクモ(鋏角類)のそれが有名だが,実は甲殻類にも糸利用者は数多く存在する.今回対象とするタナイス目は,体長数ミリ程度の小型底生甲殻類である.タナイス類の糸利用者は主に海底中や海藻上に管状の巣を作るために糸を利用する.管状の巣は隠れ家や生殖の場として機能するだけでなく,効率的な摂餌にも関係していると考えられる.このように生存上有利と考えられる糸利用能力を持ったグループは種多様化を遂げており,タナイス目の全既知種数の過半数を占めているとされる.糸利用能力の獲得は,タナイス類の多様化において重要なイベントであったはずである.しかしタナイス類の糸利用に関しては,分泌器官の詳細な形態が明らかになっていないばかりか,実はどのグループが実際に糸利用者を含むのかすらよく分かっていない状況にあった.本講演では,演者がこれまでに飼育や形態観察を通して明らかにしてきた,タナイス目甲殻類の糸利用に関わる形態の多様性について紹介する.