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第 290 回 三崎談話会

下記の通り、第290回 三崎談話会を開催いたします。今回は、3名の気鋭の研究者に、ヒラムシ、フクロエビ、ウミクワガタについてご講演頂きます。ご興味のあるかたは是非ご参加下さい。談話会・懇親会の申込は、三浦(miu_at_mmbs.s.u-tokyo.ac.jp)または小口(世話人 k.ohgreen226_at_gmail.com)まで。

日時:2019年2月20日(水)  16時00分~

場所:東京大学大学院理学系研究科・附属臨海実験所・セミナー室

講演者:大矢佑基, 下村通誉, 太田悠造

18時30分から臨海実験所・宿泊棟1階・食堂にて

大矢佑基(北海道大学理学院自然史科学専攻 博士課程)
「日本沿岸におけるヒラムシの分類学―「地味な見た目」の種類を中心に―」

 ヒラムシは扁形動物門多岐腸目に属する海産無脊椎動物の一群であり、多数の分岐を形成しながら全身にひろがる腸を持つことで特徴づけられる。体長10~60 mm程度と自由生活性の扁形動物の中でも大型になる分類群であり、世界に約1000種、日本沿岸からは約150種が知られている。主に浅海域に生息しており、中にはウミウシ類と見間違えるような非常に鮮やかな色彩や派手な模様を持つ種類も含まれ、ダイバーなど人々の目に触れることも多い。その一方で潮間帯の石の裏や干潟といった環境に生息するヒラムシは色彩の多様性に乏しく目立たない姿をしていることがほとんどである。演者は主に潮間帯に生息する「地味な見た目」のヒラムシを中心に分類学的研究を進めてきた。このような色彩情報の少ないヒラムシの種同定には組織切片による生殖器官の観察が必須であり、外見だけでの区別はほとんどできない。そのため見過ごされていた種多様性があると予想され、実際に潮間帯という身近な環境からも多数の未記載種が採集されている。本講演では相模湾におけるヒラムシの多様性にも触れながら、日本沿岸の潮間帯で最も一般的に見られるウスヒラムシ類の分類学的研究について紹介する。

下村通誉(京都大学瀬戸臨海実験所 准教授)
「日本産フクロエビ上目甲殻類の分類学的研究‐特に深海・隠蔽環境・寄生性種について‐」

 フクロエビ上目Peracaridaは浅海から水深10,000mを超える深海の海域、河川や湖沼、地下水などの陸水域、地表や地中などの陸域に生息する24,000種以上の現生種が知られる一群である。甲殻類の中で最も生息範囲が広いだけでなく、昆虫が海域にほとんど進出していないことを考えると節足動物門の中で最も生息範囲が広いグループの一つといえる。体長は数mmから50cm程度までで、自由生活性の種、他の動物の体内外で生活する共生・寄生性の種があり、海藻や動物の死骸やデトリタスを食べるもの、濾過摂食を行うもの、他の動物を捕食するもの、吸血するものなど、多様な生態と食性をもつ分類群である。成熟した雌では胸部腹側に育房をつくり、その中に産卵する。代表的な目は端脚目、等脚目、アミ目等であり12目からなる。日本近海のフクロエビ上目の分類学的知見は多くの先人により積み重ねられ、現在も多くの分類学者により研究が進められている。しかし、浅海種についても解明が不十分な分類群も多く、深海や隠蔽環境に生息する種は多くが手つかずの状態である。また、水産上有用な魚類等に寄生する寄生性種については比較的よく解明されているが、人間と関係の薄い無脊椎動物の寄生性種についてはほとんど研究がなされていない。本講演では演者が分類学的研究を手掛けた特に深海・隠蔽環境・寄生性の等脚目を中心に最近の分類学的研究の成果を紹介する。

太田悠造(鳥取県立山陰海岸ジオパーク海と大地の自然館)
「分類学的研究から分かってきたウミクワガタ類の生息場所・宿主利用(甲殻亜門:ワラジムシ目:ウミクワガタ科)」

 表題のとおり、ウミクワガタとは、海に生息する昆虫のクワガタムシでなく、甲殻類のワラジムシの仲間である。多くの甲殻類の場合、武器としての形質は歩脚であり、これがハサミ状に発達し、武器としての役割を担っている。しかしウミクワガタ類では、本来咀嚼器官として機能していた大顎(mandible)が、摂食不要となったステージである成体になると大きく伸長する。大きく伸長した大顎を動かす筋肉も発達し、頭胸部も四角形となり、武器形質としての大顎が発達しやすいクワガタムシなどの昆虫類に似た。ウミクワガタ類の系統や生態を知ることで、陸上にくらす昆虫類と、海中にくらす甲殻類でどのような並行進化が起きてきたのかを明らかにすることができる。多くの海産ワラジムシ目は1cm以下と小型で目立たず、我が国における海産等脚目の分類や生活史などの基礎的な研究は遅れている。ウミクワガタ類も例外ではなかった。演者はウミクワガタ類の分類学的研究を主軸に行いながら、魚類に外部寄生する幼生期の宿主利用や、寄生せず繁殖のみを行う成体の生息場所利用に関する知見を蓄積してきた。談話会では、これまで知られてきた様々なウミクワガタ類の生態について紹介してゆきたい。