下記の通り、第291回 三崎談話会を開催いたします。今回は、2名の気鋭の研究者に、ともに特異な生活史を持つアブラムシとミジンコについてご講演頂きます。ご興味のあるかたは是非ご参加下さい。談話会・懇親会の申込は、三浦(miu_at_mmbs.s.u-tokyo.ac.jp)または小口(世話人 k.ohgreen226_at_gmail.com)まで。
日時:2019年3月7日(木)16時00分~
場所:東京大学大学院理学系研究科・附属臨海実験所・セミナー室
講演者:小川浩太、豊田賢治
懇親会: 18時30分〜
昆虫は極限環境を除く遍く環境に生息しており、その種数は100万種を超えると言われている(Stork 2018)。地球はまさに「虫の惑星」であり、多様性に富む昆虫類は進化形態学の材料として高いポテンシャルを持っている。昆虫類(節足動物)が有する、硬いクチクラで体表が覆われる外骨格(皮膚骨格)は、複雑な形態の保持を可能にすることで形態の多様化に寄与したと考えられているが、内部形態の解析においては障壁となる。演者は外骨格を透明化し、外骨格と内部形態を同時に解析可能な手法TAFS法を開発した。TAFS法では安価で一般的な試薬でクチクラを透明化し、形態は共焦点顕微鏡や多光子顕微鏡で取得する。形態描画力が高く、非モデル生物でも適用可能であることに加え、運動性に大きく関わる筋肉や関節、神経系などの内部形態を網羅的に解析できるため、TAFS法の開発によって外骨格生物の形態進化についてこれまで以上に深く議論することができるようになった。本公演ではTAFS法における透明化と形態描画の原理について説明する。続いて、TAFS法を用いた研究の実例として、演者のアブラムシの多型および新奇形質に関する解析について紹介する。
ミジンコは、湖沼生態系の食物連鎖を支える重要な動物プランクトンである。ミジンコは通常、単為生殖によって短期間で爆発的にその数を増やすが、低温短日などの環境悪化に伴い単為生殖によってオスを産生する。つまり、ミジンコ類はメスもオスも同一のゲノム情報を有するクローンであり、その雌雄の発生運命は外部環境に完全に依存している。私はこれまでに、日長時間依存的にメスとオスの誘導が可能なミジンコ(Daphnia pulex)系統を見出し、本誘導系を用いたトランスクリプトームやメタボローム解析から複数のオス性決定に関わる因子の同定に成功してきた。本セミナーでは、私のこれまでのミジンコ研究の成果を概説するとともに、現在新しく取り組み始めた他の甲殻類を用いたプロジェクトについても紹介したい。