環境保全の努力は続けられているものの,宅地化を含む開発は進む一方で,近隣の磯や浜の生物相は,かつての豊かさから程遠くなってしまっている.幸い,本邦動物学の原点となった相模湾深所はまだ磯ほど荒れてはいないようだが,楽観はできない.今後の実験所の大きな課題の一つは,世界に誇る最大の財産だった周辺の自然を回復することにある.
また,実験所内の問題としては,十数年前から建物の老朽化に手を打つことが必要になっていた.そこでまず1976年(昭和51年)に,鉄筋2階建の学生用新宿泊棟(717m2,ベッド室10,和室3)が完成,木造の宿舎は油壺移転以来の長い歴史を閉じた.ついで,所員宿舎も建て替えられた.そして実験所本館の改造が最後に残され,木下清一郎所長(1982-1986),水野丈夫所長(1986-1988),高橋景一所長(1988-1992)のもとで予備折衝が続けられてきた.この計画は,森沢正昭所長(1992-2004)のもとでその実現に向けて,新井城跡の発掘調査,RI施設設置,海の環境保全等に関する漁業組合との協議が行われ,近代的な研究設備(大型飼育水槽室,実験水槽室,遺伝子実験施設,RI施設,分子生物学実験室,細胞培養室,低温実験室,シールド室など)を備えた新研究棟が1992年10月に着工され,1993年9月29日に完成し、新営というかたちで実現した.また,取壊しが予定されていた本館,水族標本室も改築がほどこされ,新たに記念館,水族標本館として臨海実習等の教育のために利用されることとなった.1996年には,1973年以来活躍していた「臨海丸」(9トン)にかわり,2,000mのワイアーを備えたウインチなどの設備を持つ“新”「臨海丸」(17トン)が進水し,浅海から深海に至る生物の研究が可能になった.更に,1998年には外国人講師を招へいして,国際シンポジウム“The International Symposium on the Molecular and Cell Biology of Fertilization”および国際公開臨海実習が行われ,研究教育のソフト面での充実が図られた.2004年には赤坂甲治現所長を迎え,老朽化が進む記念館の再改修を進めた。さらに機構改革も推し進め,2009年より筑波大学下田臨海センターと共同で海洋生物学推進機構(JAMBIO)を設立し,共同研究・共同利用拠点として海洋基礎生物学を推進する運びとなった.
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新実験研究棟開所式。1993年(平成5年)9月。秋篠宮御夫妻をお迎えして行われた。 |
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1998年(平成10年)7月に行われた国際シンポジウム"The International Symposium on the Molecular and Cell Biology of Fertilization"の参加者。 |
日本でもっとも古く,また世界でも有数の歴史をもつ三崎臨海実験所は,こうして新たな装いのもとに創立120周年を迎え,さらなる発展を志向しつつ,21世紀に歩みを進めつつある.
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